特定行政書士の考査(振り返り)と特定行政書士としての役割について
先日投稿した特定行政書士に関する記事のPⅤ数が思いのほか伸びておりましたので、今回はそれにあやかって、特定行政書士の考査を振り返るとともに特定行政書士の役割について整理・考察いたします。
さて、令和6年度の考査では「特定行政書士が行政処分に対する不服申立てに関する相談を受けた場合の対応として、適切ではないものはどれか」という問題が出題されました。行政書士法の規定を正面から問いつつ、行政不服審査法の適用除外を判断させるというものです。今回はこちらの問題を題材といたします。
前提として、行政書士法第1条の3第1項2号には、「行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること」と定められております。
「行政書士が作成した」とは?
およそ行政書士が作成した許認可等の申請書であれば、原則、申請拒否処分の事案について特定行政書士が代理して不服申立ての手続を行うことができます。
他方で、許認可等の申請について、申請者が行政書士に依頼せずに、自ら申請書等を作成して、それに対して申請拒否処分がなされた場合、当該申請書等は「行政書士が作成した」とは認められないため、申請拒否処分の事案について特定行政書士が代理して不服申立ての手続を行うことはできません。
なお、誤解されている方も見受けられますが、他の行政書士が作成した申請書等であっても、勿論解釈により不服申立ての手続について依頼を受けることは可能です。つまり、許認可等の申請を受任していなくても、他の行政書士が関与していたのであれば、不服申立ての手続を特定行政書士に引き継ぐことができるということになります。
「官公署に提出する書類」とは?
ここでは「申請書のみならず、広く添付書類も含まれる」と解されております。
例えば、申請書は、申請者本人が行政書士の関与なしに作成したが、その申請に必要である重要な添付書類(理由書、当局に対する上申書、関係者の陳述書など)を行政書士が本人に代理して作成した場合、申請は「行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る」ものであるとみなされ、申請に関して不服申立てをするものであれば、特定行政書士がその手続を代理することが可能となります。
行政不服審査法には13種類の適用除外がある
(適用除外)
第七条 次に掲げる処分及びその不作為については、第二条及び第三条の規定は、適用しない。
一 国会の両院若しくは一院又は議会の議決によってされる処分
二 裁判所若しくは裁判官の裁判により、又は裁判の執行としてされる処分
三 国会の両院若しくは一院若しくは議会の議決を経て、又はこれらの同意若しくは承認を得た上でされるべきものとされている処分
四 検査官会議で決すべきものとされている処分
五 当事者間の法律関係を確認し、又は形成する処分で、法令の規定により当該処分に関する訴えにおいてその法律関係の当事者の一方を被告とすべきものと定められているもの
六 刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官又は司法警察職員がする処分
七 国税又は地方税の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づいて国税庁長官、国税局長、税務署長、国税庁、国税局若しくは税務署の当該職員、税関長、税関職員又は徴税吏員(他の法令の規定に基づいてこれらの職員の職務を行う者を含む。)がする処分及び金融商品取引の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づいて証券取引等監視委員会、その職員(当該法令においてその職員とみなされる者を含む。)、財務局長又は財務支局長がする処分
八 学校、講習所、訓練所又は研修所において、教育、講習、訓練又は研修の目的を達成するために、学生、生徒、児童若しくは幼児若しくはこれらの保護者、講習生、訓練生又は研修生に対してされる処分
九 刑務所、少年刑務所、拘置所、留置施設、海上保安留置施設、少年院又は少年鑑別所において、収容の目的を達成するためにされる処分
十 外国人の出入国又は帰化に関する処分
十一 専ら人の学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分
十二 この法律に基づく処分(第五章第一節第一款の規定に基づく処分を除く。)e-GOV法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC0000000068
2 国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分で、これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為については、この法律の規定は、適用しない。
つまり、上述の「行政書士が作成した官公署に提出する書類」という要件を満たしても、行政不服審査法の適用除外であれば、そもそも不服申立ての対象とはなりません。
例えば、第7条第1項10号「外国人の出入国又は帰化に関する処分」について、処分に不服があっても、行政不服審査法に基づく審査請求をすることはできません。具体的には、上陸許可に係る処分、在留資格の変更許可に係る処分、帰化の許可に係る処分等になります。
なお、「難民認定に係る処分」に関しては、適用除外として定められていないため、難民認定の取消処分については、特定行政書士が法務大臣に対して審査請求をすることができます。一般概括主義により当然に認められる権利ということです。
最後に
以上、「行政書士が作成した」という現在の規定により、特定行政書士が活躍できる場面は非常に限定的ではありますが、近い将来的に、当該文言変更ないしは削除を伴う改正がなされるのではないかと期待しております。
また、行政書士法は、「行政書士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、行政に関する手続の円滑な実施に寄与するとともに国民の利便に資し、もつて国民の権利利益の実現に資すること」を目的としております。
特定行政書士の制度は、まさに「国民の権利利益の実現に資する」ためのものであるといえるのではないでしょうか。
合格発表は、11月中旬の予定ですので、首を長くして待ちたいと思います・・・。